早朝の真実
おはやっほ〜!
テレビの前のHAYATOファンのみんなっ、元気かにゃあ?
あれぇー? 今日はいつものスタジオじゃないよ?
でもここって見たことあるよねっ?
そうっ! またまた早乙女学園に来たんだっ!
今日のおはやっほ〜ニュースはここ早乙女学園からお届けしまーす!
前回のインタビューがとっても人気だったから、第二段だよ!
早乙女学園はとっても珍しいアイドル養成学校なんだ!
倍率200倍のすっごく狭き門をくぐって人たちが、デビューを賭けた卒業オーディションの為にアイドルコースの人と作曲家コースの人がペアを組んで、毎日勉強してるんだにゃー。
ちなみに、前回インタビューのお手伝いをしてくれた僕の双子の弟のトキヤは風邪でお休みでーす。
うーん、残念っ。
トキヤ!
風邪なんか早く治してねぇー!
じゃあ、今回のインタビューのお手伝いをしてくれるのは誰なのかにゃー?
はーい!
一十木音也! Aクラスだよっ。
得意な楽器はギターで、趣味はサッカー。トキヤは俺の親友なんだ!
今回は俺が学園を案内するよ、よろしくねっ!
はいっ、音也くんでぇーす!
音也君はトキヤと同じ部屋なんだって!
トキヤがいつもお世話になってまーす。
早乙女学園は全寮制で、二人でひとつの部屋に住んでるんだよ。寮生活って楽しそうだよねぇ。
うん、すっごく楽しいよ!
部屋では、トキヤとその日の事話したり、料理作ったり、一緒に歌の練習したり課題やったりしてるなあ。
俺が分かんないところ訊いたらちゃんと教えてくれるんだ。
あと時々ゲームも一緒にする!
俺が勝つとトキヤはいっつも『もう一度です!』って言うから、ずっとやっちゃうんだ。
いいなあ〜。ボクもここに入学しちゃいたいくらい、すっごく仲良しなんだねぇ。
そうだよ! 俺、トキヤの事大好きだから!
っ、と、こんな風に仲良しな学園なんだよ!
じゃあー、音也くんの案内で移動してみよう!
はーい、今いるここは園長先生の銅像前だよっ。そっくりだねぇー。玄関はすぐそこ!
ここの学園の校長先生はあの伝説のアイドル、シャイニング早乙女なんだって! すっごいねえ。
シャイニング早乙女が先生ってどんな感じなのかにゃ?
うーん……、無茶苦茶な人だよ。よく窓ガラスとか割ってるし……。
でもちゃんと俺たち生徒のこと考えてくれてるし、俺の憧れのアイドルなんだ!
あんな風にたくさんの人を元気にできる歌が歌えたらって思ってるよ。
そっかあ、生徒に慕われる先生なんだね!
うわぁ、アールデコ調でまとめられた豪華な玄関だあ! 学校の玄関とは思えないねぇ。
あれっ? ねえ、HAYATO! あそこにいるのって、月宮林檎じゃない?
えー? 音也くん、学校に今大人気な男の娘アイドルの月宮林檎がいる訳なんて……、ああっ、月宮林檎だっ!
見てみてっ、あっちにいるのは日向龍也みたいだよ!
まっさかー! ケンカの王子様で有名な日向龍也までここにいるなんて……、すごいっ、日向龍也だ!
おはやっぷー! 月宮林檎よん!
私は音也君のいるAクラスの担任をしてるのよっ。
日向龍也だ。俺はHAYATOの双子の弟のトキヤが所属するSクラスの担任だ。
うわぁ、ここではこんな大人気アイドルたちが先生なんだねっ。
こんな先生たちに教えてもらえるから、ここの生徒のみんなもアイドルになれるんだにゃー!
ボクも授業受けたーい!
音也くんっ、月宮林檎って学校ではどんな先生なの?
林檎ちゃんはすっごく明るくて大好き!
困ったことがあっても優しく相談にのってくれるんだよ。
ふふ、嬉しいっ! 音也君の成績上げちゃおうかなぁ〜。
いい先生なんだにゃあ!
日向龍也は、トキヤが
真面目な態度で生徒や授業に取り組まれています。厳しいですが、生徒の事を一番に考えている方です。
って言ってたよ!
そうかそうか、あいつがそんな風に言うとはねえ。
ありがとよ。でも、成績は上げないからな。
だって! トキヤくんざんねーん。
うわー、HAYATO、さっきのトキヤの真似すごくうまかった! 本当にトキヤが喋ったみたい!
双子だもん、当然だよっ。
じゃあ、CMの後はボクも音也くんと一緒に授業を受けちゃいますっ!
楽しみだにゃあー。
「音也くんお疲れ様っ! 初めての生放送ってどうだった? 全然緊張してなかったねっ」
バラエティー実習の授業の一部を共に受けて番組を終えた後、HAYATOが音也に親しげに声を掛けてくる。
自分が人気アイドルである事を全く鼻にかけていない態度だ。
「あっ、お疲れ様! もうすっごくー楽しくって緊張なんかしてられなかったんだ! HAYATOと一緒にできて本当によかった!」
音也も相手がCDやテレビで大活躍をしているHAYATOとは知らないかのように躊躇せずに手を取り、上下にぶんぶんと振る。
それでもHAYATOは笑顔のままだ。
「ボクもとーっても楽しかったにゃあ」
明るく笑う彼は小首を傾げる。
音也がよく知る人物は決して見せないような顔だった。
その顔を見ていて、音也はふと思い立ちHAYATOにねだる。
「ねえねえ、トキヤの真似すっごく似てたからもっかいやってよ!」
「ええー? あんまりやるとトキヤに怒られちゃうよぉ」
HAYATOは少し困ったように眉を寄せて辺りを見回した。
近くでトキヤが自分たちを見ていないかを探しているようだ。
「大丈夫大丈夫! トキヤなら今保健室で寝てるからさっ、ね? お願い、HAYATO!」
昨夜から咳込んでいたトキヤは、音也が朝起きると
『具合が悪いので保健室に行っています。見舞いは決して必要ありません。あなたはおはやっほ〜ニュースの事だけ考えて、へまはしないでくださいね』
と書置きを残していなくなっていた。
本当は見舞いに行きたかったが、そうすれば叱られそうなので書置きに従った。
「うーん……しょうがないなあ……。……音也、もう課題は終わったんですか? 早めに終わらせないと後で自分が困るんですよ」
HAYATOがクールな口調で喋り、冷めた眼差しで音也を見た。
それはいつも音也が耳にして目にしているトキヤの声と態度その物だ。
明朗活発でいつも笑顔でいるHAYATOの普段の振る舞いからは想像もできない。
「すっげええー! トキヤだー!」
HAYATOの自分の性格とは正反対の性格を見事にこなし、トキヤのさりげない仕草や口調の癖までを把握して真似して見せた演技力や観察力の高さに感動した音也は目を輝かせ、彼に抱きつく。
今の一瞬、音也の目の前に立っていたのはトキヤとしか思えなかった。
「わあっ」
「やっぱり双子ってそっくりなんだなあ〜。顔もそっくりだし、真似するとHAYATOなのかトキヤなのか分かんないやぁ。あれっ、匂いも一緒だ! じゃあ違うのは性格だけなんだねー!」
「ちょっ、音也……くんっ!」
鼻を首筋に埋めると、トキヤに同様の事をした時と変わらない匂いがする。
同じ石鹸を使ってるのかなあと思いながら顔を上げれば、HAYATOの髪が視界に入る。
「髪はHAYATOの方がクルンってしてるよね。トキヤはピョンッて感じ」
「お、音也くぅん……」
惹かれるままに髪に触れてみても、跳ね方は違う以外はトキヤのそれと同じだった。
音也にはHAYATOが珍しく心底困り切った表情をしているのが見えずにいる。
「いいなぁ、俺も双子だったらよかった。きっと楽しいだろうなぁ」
双子とはこんなにも似るものなのかと感心して、ひとりっこである音也が心底羨んでいると、抱きついたままのHAYATOが大声を上げる。
「音也くんっ!」
「ああ、ごめんごめん。ヘアメイクさんに怒られちゃうね」
無意識のうちに髪をグシャグシャと撫でている事に気づき、ようやく彼を解放した。
HAYATOはほっと息を吐いてから困ったように笑う。
「音也くんって、トキヤから聞いたまんまなんだねっ」
「トキヤが俺の事話してるの?」
「うん。よくトキヤに構ってるんでしょ? トキヤってさあ、冷たかったりするし、すぐに怒ったりするじゃん。嫌じゃないの?」
音也はHAYATOの発言を聞いて、首を傾げた。
HAYATOの言うトキヤは音也が思っているトキヤとはずれている。
「そうかなあ。そんなことないと思うけど」
「なら、君はトキヤの事どう思ってるのかにゃ?」
HAYATOが顔を寄せてきて、トキヤと同じ色をした目が射抜くように音也の目を見つめる。
至近距離からトキヤに見つめられている錯覚を感じた途端、音也の心臓がドキリとした。
「確かにHAYATOみたいに愛想良くないし素っ気ないけど、トキヤはなんだかんだで甘くて優しいよ。それに、怒ってるていうか叱ってくれてるって感じだなぁ。『課題をしなさい』『そんなギターじゃまだまだダメです』とかってよく俺に言うけど、本当の事だしさ。嫌だなんて思ったこと、一度もないよ」
ほんの少し視線を逸らしてトキヤを思い返しながら喋ると、HAYATOが一度瞬きをした。
いつもの笑顔ではなく真面目な顔をしていて、本当にトキヤのようだ。
「後は……そうだなあ、見てると構いたくなるっていうか、構ってほしいっていうか、もっともーっと仲良くなれたらなあって思ってるんだ」
「もう仲良しなんじゃないの?」
「そうなんだけど、トキヤがもっと俺の事好きになってくれたらって思うし、俺も今以上にトキヤの事好きになりたいんだ」
「……トキヤも」
HAYATOが何かを言いかけて躊躇った顔をする。
トキヤの話を始めた時から、HAYATOはいつもテレビで見せているような表情を浮かべない。
その代わりに、トキヤが見せるような表情ばかり浮かべている。
「……ん?」
「トキヤも、音也くんの事好きだってちゃんと思ってるよ」
呟くように言ったHAYATOが照れたようにしているのを見て、音也は満面の笑顔で大きく頷いた。
「うん、知ってる」
そう言えば、HAYATOの頬が赤くなった。
トキヤと同じように白い肌のせいでそれが目立っている。
一昨日の晩、トキヤの歌をずっと誉め続けていたら今のHAYATOの様に頬を染めていた。
「……ねえ、HAYATO。トキヤにさ、『俺の事が好きってどういう意味で?』って聞いといてよ!」
「にゃっ!? そ、そんなこと自分でトキヤに聞いたらどうなのさっ!」
「それもそっか」
音也が大人しく引くと、HAYATOが顔を逸らして、視線を彷徨わせる。
何度か音也の顔を見た後に、物言いたげにしていた口を開いた。
「……音也くんは、どういう意味なの」
「知りたい?」
彷徨っていたHAYATOの目が再び音也に向けられる。
目の奥に羞恥や躊躇、それに期待の光が光っている。
双子の兄として弟を心配しているだけなら、こんな目はしないだろう。
音也は目の前の彼に微笑みかける。
「だけど、HAYATOには教えてあげないっ」
「そ、そっかあ……」
きっと今から保健室にトキヤを見舞いに行っても、ベッドには誰もいない。
目を伏せて肩を落とす彼を見て、音也は口元を緩ませた。
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