手を伸ばさなけりゃ


――『晴天☆OHA♪YAHHO』の発表ライブの時はどうされたんですか?
あの時はほんとにほんとにごめんにゃあ! あの場に来てくれたファンのみんな、テレビ中継で見ていてくれたみんな、ほんっとにごめんね!
実はあの時、右足首が痛くって…なのに、その右足でくるって回っちゃったんだ。
そしたら足が痛くて、マイクを手放しちゃって…。
その後、大雨も降るし、ライトに雷も落ちちゃうし…。
どれだけ謝っても謝り足りないにゃあ!
――ファンの皆さんならきっと分かってくれますよ。その後、ゲリラライブをされた男性とはお知り合いですか?
そうだといいにゃあ…。
彼は知らない人だったんだけど、勢いに押されたっていうのかなあ。
いきなりステージに上がってきて、「俺の歌を聞け」って言える人ってなかなかいないと思うんだよねー。
だから、どんな歌を歌うんだろーって思って、頷いちゃったんだ。
――その自信も頷けるほどの歌唱力でしたね
うんっ! すっごく上手くってもうビックリした!
僕よりもずっとずっとね。彼に歌を教えてもらわなくっちゃ(笑)
それに、彼がバックバンドのみんなに渡した楽譜を見せてもらったんだけど、その楽譜には歌詞が書いてなかったんだ。
彼、即興であの歌詞を作ったんじゃないかなあ。
誰にでも周りに見せる為の『造った自分』がいたりするよね。
だけどそうしてたら、今度はどっちが本当の自分なのか分かんなくなっちゃったりして。
それで、ほんとはこんなハズじゃないのにゃーって悩んじゃってさ。
そんな人たちに、『何にも造らなくっていいんだよ、そのままでいいんだよっ!』て伝えられるあの歌を作った彼は本当に天才だと思うんだ。
なんて、僕の勝手な解釈なんだけどねー。
できるなら、もう一度彼に会いたいにゃあ!
そしたら、今度は僕も彼と一緒に歌うんだっ。
――ぜひとも聴きたいですね。では、『晴天☆OHA♪YAHHO』の魅力についても教えてください
あの曲のいいところはね――


砂月は読んでいた雑誌を翔のベッドの上に放り投げた。
雑誌はぐしゃりと形を歪めてしまっている。
ひとりで部屋にいた那月は翔が買ってきた音楽雑誌を読んでいた。
しかし、ふとしたきっかけで眼鏡を外してしまい、砂月が表へと出てきたという訳だ。
砂月が手にしていた雑誌をぱらぱらと捲っていると、ぼやけた視界の中で『HAYATO』の文字を見付けた。
HAYATOのあの気の抜けるような新曲紹介とインタビューの記事だ。
あのライブの時、HAYATOがにこにこと笑いながら歌って踊る姿を那月の中から見ていた。
まさにアイドルらしいその姿に、周りの女性たちは黄色い歓声を送っていた。
きらめくような笑顔を浮かべたHAYATOは「嘘は吐けない」「本当の心だけ」と歌った。
けれど、皮肉にもその歌に「本当の心」は一切感じられなかった。
ファンを喜ばせる笑顔もまるで仮面を被っているかのようだった。
太陽のような歌詞とは正反対の場所にHAYATOはいた。
本当の心を隠すのも、仮面を被るのも、彼の真っ暗な影を隠すためだ。
HAYATOの影は本来の彼の『一ノ瀬トキヤ』だ。
自分の在り方に葛藤する『一ノ瀬トキヤ』を影として、必死に覆い隠していた。
砂月は、自分を誤魔化して、偽りの笑顔を浮かべている彼を見ていてイライラした。
どうして影を誤魔化すんだ、逃げて目を背けるんだ。
HAYATOがスポットライトを浴びれば浴びるほど、歓声が上がれば上がるほどにその影は増していくんだろ。
自分が抱える影も自分自身だって認めて、『HAYATO』も受け入れて、そのままでいればいいだけの話だ。
彼にそう伝えたくて堪らなかった時、那月の眼鏡が外れた。
偶然にも得た機会を逃す手はなかった。
そして、ステージ上で砂月と向き合ったHAYATOは今までのアイドルの顔をしていなかった。
唇を結び、射抜くような目を砂月に向けて、そして頷いた。
砂月が歌っている時も、彼は今までの笑顔からは想像できないような真摯な眼差しをしていた。
その表情はHAYATOのものではなく、一ノ瀬トキヤのものだった。
その後言葉を交わす事なく別れ、彼が何を思いながら歌を聞いていたのかを知る術はなかった。
しかし、砂月の思いは確かに伝わっていると知った。
投げた雑誌を一瞥し、砂月は部屋を出る。
今度こそ、彼の本心を、本当の歌を聞く為に。


タイトルはオリオンでSHOUT OUTより