未来地図広げて
△月×日
今日からひとりのアイドルを担当することになった。
本名は一ノ瀬トキヤ、芸名はHAYATO。
HAYATOは天真爛漫でいつでも笑顔だが、トキヤ自身は落ち着いた性格だ。
それをHAYATOというキャラに完全になりきり振る舞っているという訳だ。
HAYATOの容姿は濃紺の髪と青灰色の目に色白の肌。
何よりも顔がとても整っていた。
はっきりとした目鼻立ちに薄めの唇。
HAYATOが笑うだけで、周りが華やぐようだ。
私と対面したHAYATOはまだ少年といえる年頃なのに礼儀正しく「よろしくお願いします」と頭を下げた。
これから、彼を人気アイドルにするために奔走しなければ。
それにしてもずい分と可愛い子だ。
芸能界の様々なものから私が守らないとな。
△月☆□日
HAYATOが司会を務めるおはやっほ〜ニュースの初回が放送された。
HAYATOは物怖じせずにカメラに向かって、本日のテーマである「HAYATO」について語っていた。
早朝の放送だったが、視聴率はなかなかのものだ。
夕方、HAYATOと歩いていた時にすれ違った小学生たちが「おはやっほー」と言い合っていた。
「もう夕方なんですけどね…、だけど嬉しいです」とHAYATOは笑った。
心から嬉しそうな笑顔を見て、私もとても嬉しくなった。
これからHAYATOの人気も、番組の視聴率も上げていこう。
しかし、夕焼けに染まる笑顔を写真に収められなかったのは本当に残念だ…。
○月◆×日
HAYATOのデビューシングルである「七色のコンパス」が発売された。
作詞はHAYATO自身によるものだ。
持ち前の歌唱力でバラードを見事に歌い上げた曲は発売前から好評で、街頭の大型テレビジョンでPVが流される事が決まっている。
「お祝いに何か欲しいものをあげよう」と言ったが、HAYATOは「何もいりません。でも、次のCDも出したいです」と答えた。
仕事にどん欲なのはいいことだ。
私ももっと仕事を取ってこないとな。
そうだ、何もいらないと言われたが、今度何かプレゼントしよう。
HAYATOの喜ぶ顔を想像しただけで胸が躍って、顔がにやけて仕方ない。
あの年頃の子は何が好きなんだろう。
■月*日
仕事が終わり、HAYATOを家まで送った。
話しかけても途中から返事がなくなり、停車した時に振り返ると、HAYATOは眠っていた。
最近、仕事が好調でスケジュールが詰まってるせいだろう。
私はHAYATOの自宅の前についてもHAYATOを起こさなかった。
じっくりと寝顔を見てみれば、薄く開いた唇から呼吸の音が聞こえてきた。
長いまつげが目元に影を落としている。
あどけなさが更に増していた。
目に掛かる前髪を掻き上げてやると、頬に当たった指に反応したHAYATOが「んん…」とむずがったのが可愛かった。
とても可愛かった。
いつの間に天使を車に乗せたのかと思ったがHAYATOだった。
そのままほっぺを撫でまわしたかったが、大人しくHAYATOが起きるのを待っていた。
しばらくして目覚めたHAYATOは顔を赤くして「すいません…」と謝ったが、何も謝る必要はない。
携帯とデジカメで撮った寝顔は永久保存だ。
それに、プリントアウトして部屋に貼ろう。
◇月◎※日
うっかりして、HAYATOが着替えているところに乱入してしまった。
決して決して、わざとではない。
HAYATOは着替えを見られるのが嫌だからなるべく配慮していたのだが。
本当にわざとではない。
久しぶりに見たHAYATOの体は前よりも成長していた。
背も伸びたし、筋肉も付き始めている。
だけど色は白くて線も細いままだ。
顔を赤くして「きゃー氷室さんのえっちぃ!><」なんて言ってくれるかと期待したが、「すみません…着替え中なので…」と申し訳なさそうに言われただけだった。残念だ。
しかし、そんなHAYATOも可愛い。
今度、露出する系統のグラビアの仕事を取ってこよう。
いや、それでは不用意にHAYATOの可愛さをばらまいてしまう。
しょうがないので、また乱入しよう。
10月×○日
HAYATOはどうしてこんなに可愛いのだろう…。
ずば抜けた演技と歌の才能があるのに、努力を怠らないし惜しまない姿は美しい。
カメラの前に立って愛きょうを振りまく姿も、私の前では素に戻る様子も、どちらとも可愛い。
HAYATOのその目に見つめられるだけで、「氷室さん」と呼んでくれるだけで、私は…私は…。
他の出演者がいる前の時のように甘えた声で呼んでくれるのももちろん好きだし、ふたりきりの時のような素の声で呼ばれるのも特別感があってとても好きだ。
少し怒った風に言われてもいい。
HAYATOが私を呼んでくれるなら何でもいい。
そうだ、HAYATOのバラエティーでの人気が高まっている。
なら、今後はバラエティー中心で行くことにしよう。
人気が上がれば、期待に応えようとするHAYATOの事だ、今以上の魅力で人を惹きつけるだろう。
7月△日
HAYATOがうちの事務所を、いや、HAYATOを辞めることになった
これからは一ノ瀬トキヤとしてアイドルを目指す訳だ
この春からトキヤは誰にも内緒で早乙女学園に通っていた
思い出せば、その頃から朝や昼に仕事を入れると悲しそうな顔をしていた
私に何度も「歌いたい」と訴えていた
私はそれを無視して、バラエティーやドラマの仕事ばかりを押しつけていた
気づいた時には、遅刻した事がほとんどなかった彼が遅刻を繰り返し、空き時間には台本を熱心に読んでいた彼はうたた寝をするようになっていた
学生生活と多忙な仕事を両立させていれば当然の話だ
けれど、そうしてまでトキヤはHAYATOではなくトキヤとして歌いたかったんだ
私にはそれが分からなかった
彼を思いやるふりをして何も考えていなかった
今はそれが悔しくて仕方ない
HAYATOはいなくなり、私の手元から離れていく
けれど、「また来ます」とトキヤは言ってくれた
今はそれを信じて待
HAYATOOOOOOOOO!!!!
寂しい寂しすぎる
あんなに一緒にいたHAYATOがいなくなるなんて
トキヤももちろん好きだ応援する
CDも買うしライブも行く、ライブDVDはブルーレイでいくつでも買う
番組に出るなら全て録画する
HAYATOの甘くて可愛い笑顔も好きだが、トキヤのクールな表情も好きだ
だけど寂しいぞHAYATOOOOOOOO!!!
□月☆日
うちの事務所のアイドルと、トキヤがメンバーであるST☆RISHが歌番組で共演した。
トキヤは私の姿を見付けた瞬間、話していたメンバーを放って私の方へと駆けよってきてくれた。
HAYATOを辞めてからは初めて会った彼は、HAYATOとは全く違う雰囲気で、私とふたりでいた時のように、トキヤとして何も飾っていなかった。
「氷室さん、お久しぶりです」
他の共演者やスタッフたちが何人もいる前で、トキヤは素の声で呼びかけた。
私はそれが嬉しかった。
思わず「本当によかったな」と言えば、トキヤは首を傾げて困ったように笑った。
きっと、ST☆RISHの中でトキヤはありのままに振る舞い、成長して幸せになっていく。
私はそれを陰ながら見守っていく事にし
トキヤアアアアアアアアッ!!!
歌って踊ってるトキヤ可愛かったあああああああっ!!!!
トキヤにクラクラしたあああああああっ!!!!!
タイトルは七色のコンパスより
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