4人いる!


「ほらっ、起きて起きてー! 朝だよっ!」
「んん……起きるよ……、起きる、か……」
「起きてないよっ!」
「ああーもう、分かったよ、起きる、音也、起きま〜す」
「ほら、トキヤも!」
「もう起きてますよ」
「じゃあ、後はれーじくんだね。起こしてくる!」
「うん……はあ、ねむ。おやすみぃ」
「なら、音也の分の朝食は抜きですね」
「ええっ、待ってよ! 俺も食べるって!」
「でしたら、さっさとベッドから抜け出して下さい」
「はぁーい」

「みんなぁ、ぐっもーにーん」
「おはようございます」
「おっはよー」
「おはやっほー!」
「ほら、朝食の準備をしますよ。嶺二さん、テーブルを拭いてください」
「らじゃー」
「音也はお皿を出しておいてください」
「うんっ」
「あれ、僕のお仕事は?」
「……そうですね、野菜を切、いえ、洗ってくれますか」
「分かった!」
「ねーねー、トキヤ。今日は何?」
「トーストとスクランブルエッグ、それにコンソメスープです」
「トキちゃーん、ピーナッツバターも塗っといてねぇ」
「嶺二さん……、もう少しカロリー制限というものを覚えてください」
「あ、俺は苺ジャム!」
「僕はブルーベリージャムがいいなっ」
「……もういいです、お好きにどうぞ」
「あ、ヨーグルトも食べよっと」
「ええ、いいなあ! 俺も俺もー!」
「僕も食べたーい!」
「……」
「あれれ、トキちゃんの分が足りないよ?」
「いえ、私は結構ですのでお構いなく」
「トキヤ、俺と半分こしよっ!」
「いりません」
「ちぇっ」
「トキヤのご飯楽しみだねっ」
「うんうん! 俺、久しぶりにトキヤの料理食べるー!」
「みんなで朝ご飯食べるのも久しぶりだよね。何か嬉しーい」
「トキヤは今日オフなんだよね! れーちゃんは今日の仕事なんだっけ?」
「今日はバラエティーが2本だよ。おとちゃんは?」
「俺はグラビアとー、インタビューとー、新曲のレッスンー」
「……音也」
「なに?」
「グラビア撮影があるなら食べ過ぎには注意して下さいよ」
「はーい」
「わ、トキヤ、お母さんみたーい」
「そーそー、トキちゃんってお母さんみたいなんだよね!」
「お母さん、ご飯まだー? 俺もうお腹すいてダメだー」
「……出来ましたよ」
「やったー!」
「はい、これれーちゃんのお皿っ。これがトキヤ、こっちが俺、それでこれが君の!」
「ありがとっ、音也くん」
「はあ、食べたら自分で洗ってくださいよ」
「いえっさー」
「……ん? 椅子が足りませんね」
「あれっ、ほんとだ。いつもは足りてるのにな」
「えー、なんでなんで? おっかしいねえ」
「……1、2、3、4。……1……2……3………………4」
「お?」
「ん?」
「…………何度数えたって…………4人いますね」
「あ、トキヤ。僕の横座ったらどうかにゃ? それなら、椅子が3つでも4人座れるにゃあ!」
「……は、HAYATO? 何故……、あなたが……」


***



「あ、すいませーん。ちょっと今日お腹痛くってー、お休みしまーす、えへっ」
「えっと、何か声が出なくなっちゃったんで、今日ちょっと行けないでーす、ほんとにごめんねっ」
「みんなずる休みしてるにゃあ」
携帯に向かって真っ赤なウソを吐く嶺二と音也の背中を見て笑うHAYATOを見て、トキヤは深く息を吐いた。
頭がひどく混乱している。
どうしてこんな状況になってしまったのかとどれだけ考えても答えは出ない。
昨日は普通に仕事をこなして、帰ってきて、入浴して、就寝した。
振り返れば、今朝からこの状況になっていた。
どうしてすぐに気付かなかったのかと自分を責めるがどうしようもない。
「トキヤ、どーしたの? 眉間に皺が寄ってるよっ」
「……誰のせいですか?」
目の前に自分とそっくりな顔が現れて、突然鏡を突き付けられたような感覚に陥るが、今のトキヤは微塵も笑っていないので鏡ではない事が分かる。
目を細め、眉根を寄せて考え込むトキヤの前で、悩みの原因であるHAYATOは素知らぬ顔で満面の笑みを浮かべていた。
「お仕事お休みしたよー! これで、今日いちにち家にいられるよ!」
「俺も『声出ないんですー』って言って休んだ!」
「わーいっ、じゃあ、今日は4人でいられるんだにゃあ!」
昨日までは確かにトキヤと音也、それに嶺二の3人で暮らしていた。
それは間違いない。
なのに、今朝目覚めた時から3人にもう1人、HAYATOが加わり、4人になっていた。
「……訳が分かりませんね」
ずきずきと痛む頭を抱えるトキヤを置いて、音也と嶺二、HAYATOは楽しそうに笑っている。

***

「でもさ、3人もいるんだからもう1人くらい増えたって変わらないと思うなあ」
「そうだよねっ、椅子とかベッドとかもう1個買ったらそれで大丈夫だって」
「あっ、一緒に2段ベッドで寝ようよ!」
「れいくんと2段ベッドっ? わあっ、僕ずぅっと2段ベッドに憧れてたんだあ!」
「よおっし! 今から買いにいこ!」
「待ちなさい!!」
話を勝手に進めて盛り上がる3人に、トキヤは大声をあげて制止を掛けた。
昨日までと比べて、騒がしさが6割増しになっているのはきっと気のせいではない。
トキヤの精神が消耗する速度も比例して速くなっている。
「ひとりでっ……、3人で、3人が、4人になったからとか、そんな事はもうどうでもいいんです!」
「じゃあ、何が問題なのかな?」
「どうして、私とHAYATOが分裂したのかっていう事ですよ!」
「さあ、分かんないなあ」
「キスよりすごい不思議なこともあるんだねっTKY」
嶺二は小首を傾げ、音也はにこにこ笑ってそう言う。
トキヤの最大の疑問について一緒に考えようとする意識が全く見受けられない。
「それはねえ、僕がみんなとおしゃべりしたかったからだにゃあ」
「だってさあ、トキちゃん」
「ようやくスタートラインだねっ」
ここから、一体どこへと向けてスタートをするのか。
トキヤにはこれから進むコースがどうなっているのか見当もつかなかった。

***

「音也、ふたりがいつ帰ってくるか分からないんですよ?」
「だって、ふたりともオフなんて久しぶりじゃん! もっとイチャイチャしようよ!」
音也はトキヤをソファーの背もたれに押し付けるようにして抱きついてくる。
頬に触れる音也の髪がくすぐったくて、そして嬉しい。
トキヤはそっと手を伸ばして赤い髪に触れて撫でる。
「……ねえ、トキヤ。だめ?」
彼が少し体を離し、瞳の色のような熱い視線をトキヤに向けた。
その熱に煽られるのをトキヤは感じた。
目を逸らし、小さな声で言う。
「好きに、してください」
「トキヤだいすきっ!」
そう言った音也の唇が、トキヤの唇に……。
「たーだいまー!」
「2段ベッド組み立てるにゃあー!」
「……あれれ? ラブシーンの練習中?」

***

「ほんとにね、ほんとに楽しかったんだあ。4人で……、僕と音也くんとれいくんとトキヤで、一緒に時間を過ごす事ができてさ」
それは私も一緒です。
トキヤはそう言おうとしたが、言葉にならない。
その代わり、掴んだHAYATOの手に力を込める。
その意味が伝わったように彼は大きく頷いた。
「あのね、短い時間だったけど、僕はすっごく幸せだった! ありがとう、トキヤ」
「HAYATO……」
掠れた声で名前を呼べば、HAYATOは困った顔で笑う。
「こら! アイドルがそんな顔しちゃダメだぞっ!」
「……あなただって、泣きそうですよ」
「うん……、トキヤもね。やっぱり僕たちって同じ存在だね」
握りしめていたはずのHAYATOの手がトキヤの手がすり抜けた。
彼の手の向こうに、買ったばかりの2段ベッドが見える。
血の気が引くのを感じた。
唇が震えて、目の奥が熱くなる。
「っ、HAYATO!」
「――トキヤ、ばいばいにゃあ」