あなたにつながるAM101
時間になった瞬間、楽しげなメロディをBGMに何度も聞いたタイトルコールが流れる。
「さあ、今週も始まりました! 『HAYATOのキスよりすごいラジオ』、略してキスラジ! パーソナリティーのHAYATOでっす! 今週もみんなによろしくにゃ!」
スピーカーからとっても明るいHAYATOの声が聞こえてきた。この三十分間生放送のラジオ番組を聞くのが、俺の楽しみだったけど、今日はいつもと違って心臓がバクバクして緊張した状態でそれを聞いている。
「みんなは最近ケーキって食べたかな? ボクはこの前、マネージャーの氷室さんがすっごく美味しいケーキを買ってきてくれたんだよー! 銀座にある○○○ってお店、最近テレビとか雑誌でよく名前聞くよね? あそこのショートケーキを食べたんだけど、もうすっごく! 美味しかったにゃあ!」
はあ、と感嘆のため息が聞こえる。
「生クリームが甘くてね、スポンジもフワフワで、大きなイチゴも真っ赤で甘酸っぱくて……、また食べたいなぁ。みんなも是非食べてみてね!」
本当にそう思ってるのかなあ。
周波数の向こうにいる彼を思って、俺は笑ってしまう。
「さてさて、リスナーさんからのお便りです。まずは、千葉県のラジオネームあずきちゃん、十八歳からっ。『HAYATO様こんばんは!』あずきちゃんこんばんは!『この前HAYATO様のライブ観に行きました!』」
いいなあ、俺も行きたかったけどチケット当たらなかったんだ。
HAYATOはさっきより嬉しそうな声で話を続ける。
「あっ、ライブ来てくれたんだ! うわぁ、すごく嬉しいにゃ、ありがとう!『最終日に行ったんですが、HAYATO様が疲れた様子も見せずに、最初から最後までずっと笑顔で楽しそうに歌っている姿を見られて、本当に幸せでした! また、ライブに行きたいです。これからも頑張ってください』歌を歌うのってとっても楽しいから、疲れなんか吹っ飛んじゃうんだよねぇ」
俺も分かるよ、その気持ち。どうして歌っていると、あんなに楽しい気分になるんだろう。
最近はそれと同じぐらいに楽しい事が出来たんだけど。
「何なら今からライブやってもいいよ! えっ、ダメ? 残念、スタッフさんに怒られちゃった。あずきちゃん、またライブ来てねー!」
時間を確認すると、予定の時間まで後十五分。心臓がバクバクする。充電コードに刺しっぱなしの携帯を確認すると、充電完了の文字が表示されている。
いつでも……、まだ心の準備がまだだけど、電話が掛かってきてもいい状態だ。
「それじゃあ、二通目のお便り。神奈川県の――」
HAYATOが次の手紙を読み上げる。
後もうちょっと、待ってて。
CDコンポから目を離して、トキヤのベッドを振り返る。誰もいないそこは皺ひとつなくベッドメイキングされている。几帳面なトキヤらしい。
トキヤが帰ってきたら、何て言うかな。早く会いたいよ。
ラジオを聞きながらそんな事を思っていると、携帯に着信が来た。即座に通話ボタンを押して耳に当てる。
「も、もしもし?」
「もしもし、一十木さんの携帯でしょうか? 私、先ほどお電話しました――……」
CMが終わり、最後のコーナーに移る。息を吸い込んだ私は普段は出さないような朗らかな声でマイクに語りかける。
「次のコーナーは『HAYATOにおまかせっ』。このコーナーでは、リスナーさんと直接お電話しちゃいます! それで、リスナーさんの悩みを解決して、ハッピーにしちゃうよ! 今日は誰かにゃ〜。なになに……、東京都のラジオネームおんぷくん、十六歳、と、お電話が繋がってるんだね?」
スタッフから渡された紙に書いてある相手のリスナーの情報を見て、嫌な予感がしました。
東京都、十六歳、おんぷくん。そんな、まさか。
「もしもし、おんぷくん? HAYATOだよ〜」
予感が外れている事を強く祈りましたが、どうやら通じなかったようです。
「こんばんはー!」
「お、と……、元気がいいねえ。十六歳ってことは高校生かな?」
毎日聞き飽きるほど聞いている声を聞き間違える訳がありません。名前といい、年齢といい、電話の相手は音也に間違いない。音也の相談が何かは知りませんが、さっさと終わらせてしまいましょう。背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、そう決意しました。
「うん、そうなんだ」
「そっかそっか、どう? 学校楽しい?」
「課題とか授業が難しいんだけど、すっごく楽しいよ!」
あなた、課題は大体私に頼りきりでしょうが! ひとりで成し遂げてからそう言ってください!
そんな本音は押し殺して、HAYATOを演じることに集中しなければ。もしここでバレてしまえば、あの馬鹿の事です。「えーっ! HAYATOってトキヤなのー!? うわっ、知らなかったー! え、じゃあ、何で早乙女学園に通ってるの? ねえねえ、教えてよトキヤー!」と躊躇わずに叫び、即座にネットが炎上する事でしょう。考えただけで恐ろしい……。
「じゃあ、おんぷくんのお悩みって何なのかにゃ? 部活の事とか?」
「えーと、……恋愛のことなんだ」
「恋愛っ!? あ、そ、そうだよねえ、お年頃だもんね。片思い中? それとも付き合ってるの?」
恋愛禁止令の事を忘れてしまったんですか! まあ……。片思いであれば、セーフらしいですが……。しかし、もしこの番組を早乙女さんが聞いていたらどうするんですか? 内容によっては即退学ですよ。まったく、本当に軽率な男です。しかし、何故HAYATOを相談相手に選んだのでしょうか。身近な相手にすればいいでしょうに。
「片思いだよ! 相手がなかなか振り向いてくれなくって、大変なんだぁ」
「へえー、相手はどんな子なの?」
それにしても、同じ部屋に暮らしていて、あんなに分かりやすい性格をしているというのに、音也が恋をしているだなんて全く分かりませんでした。彼の性格なら私に逐一「あの子とこんな話したんだ〜」と報告してくるか、相手からのメールなどに分かりやすく浮かれたり落ち込んだりしていそうですが。
「優しくていい子で、料理もできるし、勉強も教えてくれるし、歌も上手い子だよ」
確かに音也の好きそうな相手ですね。
そうですか……。音也にも、好きな人がいたんですか。
何故か心がざわめいている感じがしますが、子どもがいつの間にか大きくなっていた時の親と同じ気持ちでしょう。歌とサッカーのことぐらいしか頭にないと思っていましたが、……恋をしていたんですね。
「ええー! その子すごいねえ! どんな関係なの?」
知っている相手でしょうか、それとも学外の?
「同じ学校なんだけど、クラスは違うんだ」
「うんうん」
Sクラス? B? 誰の事を言っているんですか?
「あ、一個上で、同じ部屋なんだけど」
「えっ?」
一個上で、同じ部屋?
「……え? 同じ部屋に、住んでるの?」
音也と同じ部屋なのは、私しかいませんが。
血の気が引いて行って、手に力が入りません。
音也は何を言っているんでしょう……。
「そうそう。今年の四月から一緒の部屋に住んでるんだ。俺達の好みって全然違うから、同じ部屋なのに、右と左で全然違う部屋みたいなんだよ。それで」
話を続けようとした彼は何かに気づいた声を上げる。
「あっ! 違う違う、あの、間違えた、……えーっと、同じ寮って事だよ」
「そ、そっか。おんぷくんとその子は寮暮らしなんだね」
音也は言い直しましたが、いつも彼が何かを誤魔化そうとする時の態度と一緒ですし、部屋のくだりなどは完全に私達の話ですね。
マイクに入ってしまいそうなほど、心臓が大きく音を立てて脈打つ。
本当に……何を言っているんですか、この人。
「そうそう。あ、その子の事イチコちゃんって言うね」
イチコ……、私が女装した時に付けられた名前ですね。口元を覆った手の平の下で、意識せずに深い溜息が出てしまう。
音也が私の事を、好き? そんな、まさか。
「それで、HAYATO。どうしたら振り向いてくれる?」
「……。ええと」
何故、音也が恋愛相談の相手に、他の誰でもなく、HAYATOを選んだのかがようやく分かりました。彼は私の最大の秘密を知りません。音也達には、HAYATOはトキヤの双子の兄という事になっているので、それで相談してきたのでしょう。一応トップアイドルなので、やすやすと会う事は叶わない。ですが、唯一このラジオ番組ではHAYATOと話ができる。しかし、よくハガキを選んでもらえましたね、彼はくじ運がいいんでしょうか。
「年下って、やっぱりダメかなぁ。HAYATOはどう思う? 年下って好き?」
「う、うん。年下の子って、ちょっと甘える感じが可愛いと思うよ」
この手のアドバイスは、相手の話を受け入れて無難に答えるのが一番です。私自身の意見は、……別にどうでもいい事です。
「ほんと? あー、よかった!」
音也の心底嬉しそうな声に、パーソナリティとしては有るまじき事として黙り込んでしまう。
どうして、HAYATOの答えを聞いてそんなに喜ぶんですか? HAYATOがダメじゃないと言ったって、私もダメじゃないと決まった訳ではないでしょう?
ふと生じた疑問を口にしました。
「あのさ、おんぷくん。全然関係ないんだけど……、その子って兄弟とかいるの?」
「ううん、いないんだ」
今度はおかしそうな声が返ってきて、収録中にもかかわらず、額を手に当てて項垂れてしまいました。
私がHAYATOであるといつの間にか気づいていたんですね。まさか、音也に気付かれるとは夢にも思いませんでした……。彼が気づくくらいなら、他の人たちにも気づかれているかもしれません。
「イチコちゃんにさ、いっぱいアピールしてるのに全然ダメなんだ」
「……どんなアピールしたの?」
しかし、振り返ってみても、心当たりは全くありません。ただの同居人程度のやりとりしかしていませんが。
「ええっと、一緒にご飯食べようとか、買い物行こうとか、デートしようって言ったり、後は誉めたり。時々、好きって言ったりもするのに、『そうですか』で終わるんだよ。何で? もしかして、俺の事嫌い?」
HAYATOではなく、私自身に呼びかけるように音也は拗ねた口ぶりで言いました。突然の質問に口ごもってしまう。
「え、ええっと」
「あ、じゃあさじゃあさ、HAYATOは俺の事好き?」
一転して楽しそうな声。
「俺、HAYATOのファンだから、『大好き』って言ってもらえたら、頑張れそうだなー!」
この男、完全に私をからかっていますね……。説教してやりたいところですが、そうだと分かっていても他のリスナー達の前なので、歌と仕事とファンの事が大好きなHAYATOでなければいけません。
「もっちろんおんぷくんのこと大好きだよっ! おんぷくんって明るくていい子だし!」
「わっ、すっごく嬉しい! これからもファンでいるね! ……あ、それでさあ、イチコちゃんはどうなの? 俺のアピール、全然利いてないみたいだけど」
「……何ていうか、その、アピールだと思ってないんじゃない?」
アピール? あれが? あれはただの音也なりのコミュニケーションじゃないんですか? そんなの分かる訳ないでしょう。分かっていなかったんですから、効く訳が無いでしょう。
「気づいてなかった!? こんなに露骨なのに? しょ、他の友達から『やりすぎ』って言われるぐらいなんだけど」
「えっ、そうなの? ……あっ、まあ、ええと、おんぷくんの事が目に入ってなかったというか」
「目に入ってなかった……。対象外って事?」
「あ、あれじゃないかな。ほら、仲が良さそうだし、近すぎて見えてなかったんだよ」
「じゃあ、これからは俺のこと見てくれる?」
今、目の前に音也がいれば、私の目を真っ直ぐに見つめているんでしょうか。
見るもなにも、私は。
音也のあの瞳を思い浮かべると、一瞬でブース内の気温が上がったように感じました。
「と、いいなあ。あ、イチコちゃんね、優しいんだけど、ツンデレなんだよね」
「別に、ツンデレなんかじゃ」
「えっ? 何て?」
思わず反論し掛けた私を音也が止める。彼にフォローされるなんて情けないですね。しっかりしなければ。
しかし、彼にそんな態度を取った覚えはありませんが。
「ツンデレなんだー! 最近流行だよね」
「この前もさ、『デートしよう』って誘ったら断られて、落ち込んでたんだ。そしたら、ト、イチコちゃん、『今度買い物に付き合ってください』だって。俺、すっごく嬉しかったな。次の日曜に行くんだけど、本当に楽しみだよ」
「もー! のろけちゃってー!」
あれは、そういうつもりだった訳ではないんですが……。
「ねえねえ、なんでツンデレなのかな? そんな所も好きだけど。でも、どうして最初の『デートしよう』で『うん』って言ってくれないの?」
「……素直じゃないんだ」
……これはあくまで、リスナーの相談を受けているHAYATOの言葉です。HAYATOが『イチコちゃん』の気持ちを想像して代弁しているだけです。
「本当は誘ってくれて嬉しいけど、何だか恥ずかしいから『うん』とは言えなくて、……でもおんぷくんが落ち込んでるのは見てられないし」
「だから、『買い物行こ』って誘ってくれたんだね」
「……そうだと思うよっ!」
「あのさ、HAYATO。最後にひとつだけいい?」
「なに?」
「イチコちゃん、多分、ううん、絶対このラジオ聞いてると思うんだ」
「リスナーさんなんだ! 嬉しいにゃあ」
ええ、今もちゃんと聞いていますよ。
「だから、メッセージ。……一ノ瀬さん、いつも勉強教えてくれたり、ご飯作ってくれてありがとう。昨日のハンバーグ、美味しかったよ」
聞いたことがない、音也の深く優しい声。その声は私の心の奥深くまで染み込んでいって、眠っていたものを呼び醒ますようでした。
「本当に大変なバイトと学校を両立させようと頑張ってる姿が大好き。でも、無理はしないでね。これからは俺にも頼ってほしいよ」
まったく、いつから気づいていたんですか? それに、音也に頼る? そう言う割には、頼りがいがありませんけどね。
だけど、私は微笑み、音也の言葉に耳を澄ませました。
「本当に大好きだよ、一ノ瀬さん。こんな方法でごめんね。でもきっと、普通に言っても聞いてくれないと思って」
鼻をすするのと同時に目元が濡れる。ガラス越しにスタッフの方の驚く顔が見えました。手と首を振り、何でもないと伝える。
「HAYATO、泣いてる?」
「誰のせいで……、おんぷくんの告白聞いてたら何だか泣けちゃった! イチコちゃん、きっと君に応えるよ。ボクが保証する」
「うん、俺もそう信じてる。ありがとう、HAYATO」
「うん……うん……。じゃあ、イチコちゃんが振りむいて、おんぷくんのお悩みが解決しますように! ばいばいにゃー!」
「ばいばーい!」
そして、CMへ。これが明ければ、今日の放送ももう終わりです。この後の仕事は無いので、もうじき音也の待つあの部屋へ帰れますね。ただ……。
帰ってこないなぁ。
ドアの真横に座ってからもう四十五分。
トキヤが出掛ける前に、帰るって言っていた時間から三十分も経っている。でも電話したりメールするのも、ちょっとあれかなと思ってできない。話すなら、直接がいいよ。
「……トキヤ〜」
返事はない。もう、帰ってこないなら探しに行くからね。
愛しい人を探すために、俺はジャケットを羽織って部屋から出た。
学園の敷地はだだっ広いけど、トキヤが行きそうな場所は分かる。こういう時、あいつは大体湖の近くに行くんだ。あまり明かりが無い中、湖の方へと歩いて行く。肌寒い空気に少し体が震える。出身地のせいか、俺より寒がりなトキヤはもっと寒がっているだろうな。
早足で進んで約六分。思った通り、トキヤは湖畔にあるベンチに座っていた。その横にあるお洒落なデザインの電灯に白く照らされている。
背後に回って、項垂れている彼にそっと忍び寄る。それでも、後五メートルのところでトキヤが振り返った。ばっちりと視線が合った瞬間に顔を赤くしたトキヤは立ち上がって逃げようとした。
「トキヤ! 待ってってば!」
走って追いかけて、すぐに腕を捕まえてベンチまで連行する。やっぱり手が冷たい。
トキヤを座らせて俺も右隣に座ると、トキヤは体を小さくした。さっきから、まともに俺の顔を見てくれない。心臓がさっきよりもドキドキとしている。
「……トキヤ」
さっきまでスピーカー越しに聞いていた声とは全く違う掠れた声で「はい」と答える。未だにトキヤとHAYATOが同一人物だって事が信じられないや。
「お仕事、お疲れ様」
トキヤがようやく俺を見た。綺麗な深い青色の向こうに、いろんな感情が渦巻いている。
「……いつからですか」
「それって、俺がいつからトキヤが好きだったかってこと?」
わざとそう言うと、トキヤは俯いた。
「HAYATOだって気付いたのはいつだったかな。……トキヤと、HAYATOの生放送のテレビとかラジオを聞いたこと無いなって思ったのがきっかけだったと思う」
「……」
「同じ部屋で暮らしてるんだから、気付くのも当然だって」
「あなたなら、気づかないと思っていたんですが……」
「これが、トキヤじゃなかったら気づかなかったかも」
どういう意味なのかって視線で聞かれる。
「トキヤの事が好きで、よく見てたから分かったんだよ」
「その、好き、というのは、本当に……」 「友達じゃなくって、キスしたいとか、そういうの」
目線を逸らしたトキヤの白い顔が赤くなったのを見て、思わず笑ってしまう。
「HAYATOにも『恋愛相談』って言ったじゃん」
「あなた、あんな事するなんて何考えてるんですか……!」
からかうように言った言葉に、赤い顔のままでトキヤが俺を睨んだ。いつもなら俺を恐縮させるはずの睨みも、今はトキヤの事が好きだなあって気持ちを膨らますだけだ。
「だって、俺が『好き』って勇気出して言ってるのに、それを何回も流してたのはトキヤだよ。じゃあ、ああするしかないよ」
「その、だから、本気だと思っていなくて」
「嫌われてるよりはマシだけど、それはそれで悲しいな」
「すみません」
膝の上に置かれたトキヤの手がきゅっと握られる。その右手に自分のものを重ねるとやっぱり冷たくて、暖めるみたいに握りしめた。長い前髪の下から窺うようにトキヤの目が俺を見る。
「それで、だから……、もう一回言うけどさ、…………、俺、本当にトキヤの事好きなんだ」
改めて言うと、何か照れくさくなって顔が熱くなる。あんまり見られたくなくて、空いている手の甲を口元に押し付けた。だけどトキヤは俺の顔の変化に気づいてしまって、ちょっと目を見張った。それからゆっくりと微笑む。今までに見た事が無い顔で、思わず見とれた。
「何人も聴いているラジオでは普通に告白できるのに、私しか聞いていないとそんな風になるんですね」
冷たいトキヤの左手が俺の熱い頬を撫でる。ひんやりとしたそれが気持ちよくって、つい頬を擦り寄せた。
「――返事はいつでもいいよ。ただ、トキヤの事が本当に好きなんだって知ってほしかったんだ」
「『いつでもいい』なら、今でもいいんですね?」
トキヤがちょっと悪戯っぽく笑う。
「え、あ、うん……。できれば良いお返事でお願いします」
「そうですね。私も……音也の事が好き」
たった二文字の言葉なのに、それは俺の胸を空まで舞い上がらせて、心の中をいっぱいに埋め尽くす。
「トキヤ……!」
「……だと、思います」
「ええっ、そんなぁ」
感激して、トキヤを抱き締めようとしたのに体をずらして逃げられた。そのまま向けられた背中を未練がましく見ていると、ちらりと見える耳が赤くなっている事に気づいてしまった。HAYATOの言葉が不意に蘇る。ああ、そっか。トキヤはそういう性格だよね。
両腕を伸ばして大好きな人を背中から抱き締める。少しだけ体が動いたけど、何も言われない。腕にそっと置かれた手がきっと答えだ。
「トキヤ」
素直じゃないトキヤの名前を呼んで目を合わせて、キスをした。
「……ラジオのおかげでできるキスってあるんだね?」
ラジオの番組名をもじって言うと、トキヤに頭を叩かれた。
本当、素直じゃない。けど、そこも大好き!
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