How to tell you love 中編
「トキヤ! 頑張れー!」
スタジオに響く他の声援に負けないように思いっきり声を張り上げた。すると、一ノ瀬が振り向いて肩まで手を挙げたから、俺も両手をぶんぶんと振り返す。
「一ノ瀬さん、意気込みはいかかですか? 一十木さんも応援していますが」
「音也に言われなくても、絶対に勝ちますよ」
司会役のアナウンサーに話しかけられて、一ノ瀬はいつもの自信満々な笑みを浮かべる。
「では、四ノ宮さんはどうでしょうか?」
「僕も負けませんよ〜」
「那月ぃ! 負けたら承知しねーぞ!」
「はーい! 応援しててくださいねぇ!」
「では、お二人とも位置についてください。用意……」
一瞬の間を置いて鳴り響いた甲高い笛の音と同時に二人が走りだした。観客席から聞こえる歓声が大きくなる。
このST☆RISHの冠番組は、毎回メンバーがペアになって、スポーツやゲームをして稼いだ得点で勝敗を争う内容だ。今回は久しぶりの同室組だ。たった今始まった最終ゲームの二〇〇メートル走を前に、マサとレンのペアはすでに敗退している。だから、那月と翔、俺達のペアの戦いになっていた。
じゃんけんで決められた走者が辿るコースはスタジオを抜けて、局内を走ってまたここへ戻ってくるものだ。だから、しばらくはモニターで様子を見るしかない。ひとまずは那月が後ろを走っているけど、それでも距離をあまり開けずにについて行く。ワイプ用のカメラが俺に向けられているのを感じながら、両手を組んでモニターを熱く見つめた。
コースの残り半分を切った頃、曲がり角の影に大きな黄色いものが映った。何だろうと思っていると、那月の顔がパッと輝いたのが分かった。
「うわー! ピヨちゃんだぁ!」
そう叫んだ那月がコースを外れて、通路を歩いていたピヨちゃんの着ぐるみに向かって行き、そのまま熱い抱擁を交わした。
「こらぁぁぁ!! 那月ぃぃぃぃ!!!」
叫ぶ翔をよそに、観客席は爆笑していて、マサとレンと俺も笑ってしまう。
「シノミーはしょうがないねえ」
「これで一ノ瀬の勝ちが決まったな」
マサの言う通り、一ノ瀬がスタジオに戻ってきて、大して嬉しくなさそうな面持ちでゴールテープを切った。もう一度笛が鳴り響く。
「今、一ノ瀬さんがゴール! という訳で、本日の優勝は一十木・一ノ瀬ペア!」
盛大な拍手喝采の中、俺は一ノ瀬に駆け寄って勢いよく抱きついた。抱きついた体は、走ったせいで少し体温が高い。カメラも寄ってくる。満面の笑みで声を上げながら飛び跳ねる。
「やったー! 俺たちの勝ちっ!! やったよ、トキヤぁ!」
「……何だかあまり釈然としないんですけど」
「もう! トキヤが勝った事には変わりないんだから気にしない、気にしなーい!」
両手で頬を挟んでぐにぐにと顔を弄ると「止めてください」と額を軽く叩かれた。不意に歓声が笑い声に変わったから振り返ると、那月と着ぐるみのピヨちゃんが手を繋いでスタジオに戻って来ていた。思わず二人同時に吹き出してしまう。
「翔ちゃん見て見てー、ピヨちゃんですよぉ!」
「おまっ、何で連れて来てんだよ!!」
那月とピヨちゃんがまるでコントのようにゴールして、最終ゲームが終わった。そして、ピヨちゃんに帰ってもらってから番組の締めに入る。
「優勝おめでとうございます、今のお気持ちは?」
「そうですね……。主に活躍したのは音也なので、また次回頑張ります」
「俺とトキヤだったから勝てたんだよ! 久しぶりにトキヤと組めて楽しかったし、勝ててすっごく嬉しい!」
肩を抱き寄せる。相変わらず薄い肩だと思った。一ヶ月経っても、こういう所は変わらない。
「……では、そういうことにしておきましょう」
カメラの前で、少し困ったように微笑む一ノ瀬と目を見合わせて俺は笑ってみせた。
収録が終わって楽屋へ戻る。二時間後には他の番組の撮影だから、しばらく待機だ。俺はずっと翔と那月とさっきの事について喋っていた。
「ピヨちゃんにね、『一緒に行きませんか?』って聞いたら頷いてくれたんです」
「何で一緒に行こうって誘うのかが分かんねーよ」
「今度のNG集で使われそうだよね。大賞とか取れそう!」
「大賞? わあ、嬉しいな!」
「あんまり喜んでいいもんでもないだろ……」
「翔、那月。ちょっと来てくれ」
「はーい」
マネージャーに呼ばれて、翔達が楽屋を出て行く。話し相手がいなくなった俺は台本を読んでいるマサの隣に行った。
「ねえねえ、マサ」
「悪い。今、明後日のドラマの台本を読んでいるんだ。また後でもいいか?」
「あ、ごめん」
マサがすまなさそうにしてから、すぐに台本に目を落とす。マサからレンに視線を向けたけど、レンは寝ていた。起こす訳にもいかなくて、すごすごと元の位置に戻る。
ちらりと一ノ瀬を見ると、ひとりで鏡台前に座って何かの本を読んでいた。別れてからもう一ヶ月が経っている。その間ずっとカメラや他の人の目がある所では、今まで通りに振る舞ってきた。『トキヤ』って笑顔で名前を呼んで、時々触れたりする。向こうも『音也』って呼んで、俺を窘めたり発言に呆れたりしてみせていた。今の冷めた関係のせいで、仕事に問題を起こしたりはしていない。むしろ、ドラマの方では演技力が急に伸びてきたって誉められてるぐらいだ。
だけど、メンバーしかいない楽屋なんかでは、もうずっとこんな感じだ。一ノ瀬とは仕事に関する話しかしない。他に話相手がいなくても、声を掛けたりしない。隣に座ることも出来る限り避けている。呼び方もなるべく呼ばないか、変わらずに名字で呼んでいた。呼び慣れなかったあいつの名字も、今では慣れきってしまった。うっかり名前で呼ぶ事もない。
次の番組の台本も頭に入っているから、特にする事が無くてテーブルに突っ伏す。誰かからメールが来てないかと期待しながら携帯をチェックしたけど一通も来ていない。こっそりとため息を吐いた。早く翔と那月帰って来ないかな。
「……静かで寝やすいねえ」
「え?」
いつの間に起きたのか、レンが頬杖を突いて俺の事を見ていた。
「前までなら、もっと騒々しかったのにと思ってさ」
「……うーん、そうだっけ」
俺が返答に困っていると、突然立ち上がった一ノ瀬がドアへと大股に歩いていく。
「どこ行くんだい、イッチー」
「お手洗いです」
素っ気なく言って、振り向きもせずに楽屋を出て行った。
あいつが何で出て行ったのか、レンが何を言いたいのかは分かるつもりだ。別れるまでこんな空き時間には、他の皆とも喋っていたけど、あいつと一番喋っていた。嫌がられても隣に張り付いて、何かを話していた。一か月しか経っていないのに、それが遠い昔の話みたいだ。それどころか、今と状況が違いすぎるせいで夢だったようにも思える。
あいつの家の鍵は結局返せていなくて、返された俺の合鍵と一緒に俺の家に置いてある。きっと、その鍵を使う事はもうない。
「ねえ、イッキはさ」
しばらく黙っていたレンが何かを言い掛けた時、楽屋のドアが開いた。翔達が帰ってきたのかと期待してドアを見たけど、そこに立っていたのは一ノ瀬だった。でも、その後ろに那月が見える。翔はどこに行ったのかな。
「レン」
「ん?」
「翔が呼んでますよ」
「何だって?」
「そこまでは知りません」
一ノ瀬が俺を見る。何、そのどうでもよさそうな目。
「……一十木さんも」
更に、冷たい声で付け足しのように言われて、胸の奥底がカッと熱くなった。何もそんな風に呼ばなくたっていいのに!
「どーも、一ノ瀬っ! レン、行こっ!」
「はいはい」
レンの腕を掴んで、一ノ瀬の横を見向きもせずに通り抜ける。
「翔ちゃんはあっちの自動販売機の方にいますよ」
「ありがと那月っ」
方角を教えてくれた那月にお礼を言って、翔の元へいく。翔は人気のない自販機前のソファーに座ってコーラを飲んでいた。一ノ瀬へのムカムカした気持ちを必死に抑えこんで、息を吸い込んでから翔に話し掛ける。
「いいなぁ、一口ちょうだい」
その隣に座って手を出すけど、翔は缶を揺らして囁く。
「で、いつ戻るんだ?」
「楽屋に? いつでもいいけど」
「そうじゃなくてさ」
俺の隣に座ったレンがゆっくりと首を振る。まるで翔の言いたいことが分かってるみたいだ。
「イッチーとの仲だよ」
「……別に戻さないよ。仕事の時はちゃんとするから、それでいいじゃん」
戻りたいなんて思わないし、例え俺が『仲直りしよう』って言っても、冷たく『一十木さん』なんて呼ぶようなあいつは聞かない。多分、ずっとこのままなんだ。
「まあ、確かに仕事の時はちゃんとしてるけどね」
「何か思ってる事があるなら、愚痴でもいいから話してみろよ。聞くぐらいはしてやるぜ?」
「……本当?」
翔とレンが俺の顔を覗きこんでニヤリと笑った。
その日の夜、収録を終えてから俺とレンは翔の家に行った。俺と翔で適当に料理を作ってダラダラと食べながら喋る。
「さっきだって、あいつ、俺なんかどうでもいいみたいに冷たく『一十木さん』って呼んだんだよ」
「イッチーが怒ると怖いんだよね……」
「お前がからかうからあいつも怒るんだよ。そういや、音也、何でいきなり別れるって言い出したんだ?」
「だってさぁ、あのグラビア撮影の時、カメラの前では普通に『音也〜』ってちょっと笑いながら呼んで、しかも励ましてくれたのに、控え室に戻った瞬間『話しかけないでください』だよ! だから俺、すっごく腹が立って『別れる』って」
一ノ瀬が別れたいって言い出したきっかけはもう話していたけど、どうして俺がそれを飲み込んだのかは話していなかった。話すと、あの時の苛立たしさを改めて感じてしまった。レンはうんうんと頷く。
「イッチーが許してくれたと思っていたのに、そうじゃなかったから悲しかったんだね」
「悲しかったんじゃなくって、ムカついたんだって!」
「ふーん?」
「本当だよ!」
そう言いながら、ふと、そうなのかなって思った。撮影の時、一ノ瀬が……、あいつが笑って名前を呼んで、励ましてくれて、俺は。
意地や見栄の感情のかたまりに隠れたその時の記憶に触れる。
……俺はすごく嬉しかった。
許してもらえたって思ったし、『普段通りでいい』っていう励ましが、いつもの俺を認めてくれてるみたいで嬉しかった。なのに、後になって『仕事のためにやった』みたいに言われて、裏切られたみたいで……。
「……うん、悲しかった」
悲しくなった後、すぐに怒りに変わったのを思いだした。あれからずっと怒ってきていたから、悲しかった事なんて頭から抜け落ちていた。
暗い声で言った俺のコップに翔が慌ててペットボトルからコーラを継ぎ足した。
「何もそんな声出すことないだろ!」
「へへ……。ありがとう、翔」
一口飲むと、口内でほんのちょっとぬるい炭酸が弾ける。
「あ、今日ってあの番組の日じゃなかった?」
レンが二十一時前を指す時計を見上げると、新聞紙を持ってきた翔がテレビ欄を確認した。それから嬉しそうに声を上げる。
「おっ、ほんとだ」
「あの番組ってどれ?」
「ほら、京都にロケに行った奴だよ」
「……ああ」
レンがテレビを付けて、数本のCMの後に番組が始まった。この番組は毎回芸能人の誰かが日本のどこかを散策するっていう内容で、ST☆RISHで京都に行ってきたのは二ヶ月前の事だ。この番組でもまた同室でペアを組んで撮影した。テレビの中の翔が「じゃ、三時間後にここに戻って来いよ」と話す。
「遅れたらどうなるの?」ってレンが聞く。
「遅れたら、ロケバスに置き去りにされる」
「じゃあさ、いっそ皆で乗り遅れてここに一泊して行こうよ」
俺が隣にいる一ノ瀬の肩を意味もなく掴んで笑うと、翔も笑う。
「俺だってそうしたいけどさ」
「ねえ、翔ちゃんどこ行きます? 『背が大きくなりますように』って頼みに行きましょうか?」
「っ、た、頼ま、ねえよ!」
「俺は大和撫子でも探しに行こうかな」
「お前……」
「ねえねえトキヤトキヤ、何か美味しいもの食べに行こうよ!」
「言うと思いました……」
こんな時もあったな。楽屋でもロケバスでも名前で呼び合って、ベタベタしてて。京都って初めて行ったから、カメラが回っててもデートしてるみたいにすごくはしゃいだっけ。東京に帰って来ても、しばらくの間ずっと一ノ瀬と『楽しかったね』って話してたな。
「おチビちゃん達は本当に色んなところ巡って『身長が伸びますように』って頼んできたんだよね」
「笑うなぁ!」
「笑ってなんかいないさ。……最近思ってたんだけど、もしかして背が伸びたんじゃない?」
「えっ、マジで?」
「ああ、悪い。気のせいだった」
「レン!」
レンが翔をからかってる間に、テレビの中の、二ヶ月前の俺達がお店に入った。ここで俺は抹茶パフェ、一ノ瀬は抹茶のかき氷を食べた。
「おおー! すごい、美味しそー!」
「……かなり大きいですね。音也の顔と同じくらいありますよ」
一ノ瀬がパフェを俺の顔と並べて苦笑いした。
「じゃ、いただきまーす!」
「いただきます」
上に載った抹茶アイスをすくって口に運ぶ。あのパフェ美味しかったな。また食べに行きたい。
「あ、美味しい! 俺、苦いのって好きじゃないんだけど、これなら食べられるなあ」
もう一度アイスをすくって、カメラに向ける。
「はい、あーん。……やっぱりあげなーい!」
それから隣のあいつを肘でつつく。
「ほら、トキヤも!」
「……あーん」
カメラに差し出されたスプーンを俺が横からくわえた。一ノ瀬が驚いた顔をする。
「音也」
「こっちのも美味しいね! もう一口食べていい?」
返事も聞かずに、スプーンでかき氷をかなり大きくすくって、口にする。今の一口のせいで、かき氷がいくらか減ってしまった。
「こら、音也!」
こんな事言うけど、収録の後にこっそり『さっきはありがとうございました』って言われたんだよね。あいつ、食べ歩き系のロケって好きだけど苦手だから。
CMに変わる。
「カメラの前でいちゃつきすぎだろ」
「イッキとイッチーだからしょうがないよ」
「あ、俺達だ」
今度は翔と那月が映っていた。他のメンバーが何をしてたのかは話に聞いただけだから楽しみだ。
「『身長が伸びますように』って……どこに頼みに行けばいいんでしょうか?」
「さぁ……、厄除け?」
「厄除け、ねえ……」ってレンが隣にいる方の翔に哀れむ目を向ける。それを見た俺が笑っている間にも、翔達は厄除けで有名な場所をガイドマップで調べていた。それで大体の見当をつけて、京都にはバイオリンのコンサートで来た事があるって話しながらゆっくり歩き始める。坂道を上がるのに競争したりしながら、目当ての神社に行った。お賽銭を投げて鈴を鳴らす。それから頭を下げて手を叩いた。少ししてから、また頭を下げてから振り返る。
「那月は何お願いしたんだ?」
「翔ちゃんの背が高くなりますように、それから、ST☆RISHがもっと皆に好きになってもらえますようにって。翔ちゃんは?」
「何で俺の事まで頼んでるんだよ……。俺は、……背もアイドルとしても、もっとでっかくなれますようにって」
「二人でお願いしたから、きっと叶いますね。あ、お守りも買っていきましょう!」
那月がそう言って、ふたりでお守りを買ったところでまたCMになった。
お守りかあ。恋愛にいいっていうお寺の近くは通ったけど、何にもできなかったな。あいつにそっと『お守りとかおみくじ買おうよ』って言ったけど、静かに首を振られた。もし、あの時お守りを買ったり、お願い事をしてたら、今頃どうしてたんだろう。
「……二人掛かりでも叶わなかったんだね」
「なっ、まだ二ヶ月しか経ってないだろ!」
「そうだね、何事も信心が大事だよ」
「お前が言うと物凄く胡散臭いな」
今度はレンとマサが画面に映る。二人はお土産屋さんを覗いていた。
「誰かに何か買うのか?」
「妹にだ」
「ああ……。それで、何で木刀持ってるんだよ」
「……適当な物が分からないんだ」
「ふーん。レディ、十二歳の女の子が喜ぶようなものって何かな?」
レンがお店のおばさんに優しく声を掛ける。
「お前、節操なさすぎだろ」
「レディに年齢の上下なんか関係ないんだよ」
「レン、その発言……何か、すごくアレだよ」
「ようやく喋ったと思ったらうるさいよ、イッキ」
レンが俺の頬を突く。
マサはお勧めされた青い花柄のちりめんの鏡を買ってその店を出た。近くを歩いていた着物姿の女の人に話し掛けようとするレンの首根っこを掴んで、「他のも見てみよう」と別のお土産屋さんを探し出す。
俺達は色違いのストラップを買ったけど、あいつはそれをどうしたんだろう。捨てられたかな、それだったらイヤだな。
レンとマサが二軒お店を見たところでCM。明けると、また俺達が映った。今度は三色団子を一本ずつ買って、食べながらブラブラと歩いている。ふと通りかかった店の前には何着も着物が飾ってあった。
「華やかですね」
あいつが目を細めて着物を見つめる。
「うん。着物なんて見る機会ないからすごく綺麗に見えるよ」
そう言いながら、俺の頭にはあいつがこれを着る姿が浮かんでいたのを覚えている。きっと綺麗だろうなって妄想していた俺を見越したようなチラシが着物の横に貼ってあった。
「あっ! 舞妓さん体験ができるんだ。ねえねえ、トキヤも舞妓さんの格好してみようよ!」
「そういうのは翔の担当でしょう」
興奮気味に言う俺にあいつが冷静に答えると、レンが笑って翔が怒った。
「あいつ何勝手な事言ってるんだよ!」
「俺もそう思ってたんだけどねえ……」
「……ああ、あれか」
「あれ、本当にズルいよね。全部持って行っちゃった」
三時間経って集合場所に戻ると、レンがひとりの舞妓さんを連れて来た。最初はナンパした人かと思ったけど、よく見るとそれはマサだった。
「レディがふざけて『きっと似合いますよ』って勧めただけなのに、まさか真に受けるとはね」
「似合ってたことは似合ってたけどな……」
お喋りしながら京都の街を歩く二か月前の俺達は別世界の人間みたいだ。いつか、その世界に戻る日は来るんだろうか。
俺のくだらない冗談で小さく笑うトキヤの姿を見ながら、そう思った。
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